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19.8 料理上手とは

家庭でつくる料理には、あまり高くないコスト、多くない手間ひまなどが普通は求められる。これまでの短い経験から筆者が感じた料理上手となるためのポイントを列挙する。
  1. 全体として素材を活かす事:
    家庭で使う素材の品質等は限定されてしまうが、その範囲で素材を充分活かす料理を作る事が重要と思われる。素材を活かせば、結果として無駄な労力がなくなり、美味しさも保証される。日本では、煮ても焼いても食えないような素材は、無理しなければ探せないと思う。
  2. コントラスト。
    冷たい物に対して、熱い物。柔らかい物の後には硬めのもの。重量感のある物のあとは、さっぱりしたもの。塩気の後の甘味。ひとつの料理の中に食感が大きく違う物を混ぜること。色彩にポイントがある事、美味しさが格段に向上する素材の組み合わせ。この他にもあげれば際限がないが、同一の料理の範囲内ではもちろんであるが、その時の食事全体にわたり、調理法を含めてさまざまな角度からのコントラストが考えられ、織り込まれている事。そうした重層する構成により、個々の料理の特質が強調されるとともに、コース全体として、最初から最後まで美味しく食べる事ができる。このような心遣いは、毎日の食卓においても、工夫を重ねる事により、それが自然の状態として実現できるようになる。筆者がこのような事を実感したのは、正月のお節料理を作り、数年を経て、それを味わって食べるようになってからであった。
  3. 均一性。
    基本的な条件として、例えば、ひとつの料理の中の具の煮方(硬さ)は同じになっていなければならない。言い方を変えれば、例えば、茎と葉のそれぞれの硬さが同じになるように煮る(茹でる)方法を習得(あるいは意識)している必要がある。そうした事が、ほとんど自然の動作として実現されなければならない。その後の段階においては、変化技(バリエイション)として、硬さや大きさに変化をわざとつける方法等がある。材料に違いがある場合には、切る大きさを変えるとか、切る方法を工夫する(隠し包丁など)、煮る時間(順序)を変えるとかしなければならない。毎日の料理の時に、こうした事を考えながら実践する事により、いつのまにか、仕上がりが違ってくるのであろう。基本的な技と言われるものは、その意味を理解しつつ習得する事が重要と思われる。
  4. 特性を活かし、場合により一層強調する。
    普通にご飯を炊く場合、米を水洗いした後、しばらく時間をおく(30分程度)。これは、米の特性を活かす調理法といえる。イタリアのリゾットでは、最初に油で炒める事により、逆に、ふやける事が少ないような方法を採用する。これは、油の特性を活かす調理法を米に応用している言えよう。最終的な料理の形により、調理法が違ってくるのである。これをひと口に言えば、材料の特性を活かす方法を採用する事である。最初に葉物を水につけるのは何故か、まず油で炒めてから次の工程に入るのはなぜかなど、その意味をよく理解しつつ行えば、その工程をどのように行うのが最上の策なのかがあきらかとなる。更に、素材の特徴を簡単な手法を使う事により、強調して引き出す事が行われる。例えば、色を鮮やかにする(塩を使う、急冷する、最後にみりんや油を入れる等)、食感を向上させる、匂いを保つ工夫をするなど。こうしたそれぞれとしては小さな工夫の集大成として、最後に一品ができあがる。相性の悪い素材と味の組み合わせのもとで、味の改善の努力を重ねてもいかにむなしい結果に終わるかは、著者のいくつかの試験で体験した事である。我々は、通常はスーパーで売られる品を素材として使わざるをえない。天下に名だたる良い品とスーパーの品との差は埋めようがないが、そのあたりは、個々人の感覚と素材を活かす工夫によりアタックしよう。毎日の料理としては満足ゆく結果を得られるのではないか。
  5. 手際。
    ある料理の場合には、それに必要な最適な時間が決まっているものである。野菜炒めを作る時に、1時間もかけて炒めていては、本来の野菜炒めとは似ても似つかぬ結果になるだろう。お膳立てを含めて最上の野菜炒めを最小の労力で作る事が求められる。それには、ある程度の道具と技術も必要である。毎日の料理にあたり、こうした手際を念頭において仕事の組立を行えば、自然と結果はついてくるのではないか。
  6. 塩加減
    味の基本は塩加減と思う。塩気については、健康とのかねあいもあり、人それぞれでよいと思われるが、毎日の家庭料理では、健康料理が第一に必要な特性と考える。そうした意味から、我が家の塩分の量は大分減っている。「歳とともに薄い味付け」と言われているが、味がわかる為にはある種の悟りが必要であり、その時から味を楽しむようになるという[10]。当然ながら、それは素材の旨味を味わう事になり、味付けは、自然と薄くなるだろう。最近、割烹料理店でコースを楽しんだが、一品毎に美味しいのではあるが、それが重なるにつれて、何か塩気を取りすぎているような感覚となってしまった。和食は全体として予想外に塩気が多い場合があるので注意が必要と思われる。ふらりと立ち寄った寿司中心のお店で、何品か注文をしたが、その全てを食べて、塩分が多いとは感じさせなかった。私の好みの店となった。美味しさを出すために塩気を増やしたいと思うのが普通だが、塩味というものは慣れによる部分が相当にあると感じている。ほとんどの料理に、更に醤油をたっぷりとかける人を見かけるが、これは習慣のなせる業と思われる。逆に、生野菜に何もかけないでそのままを食べて、実に美味いと感じる事も可能である。家庭にあう適切な塩気を達成するためには、料理中に、味見をする事が重要であり、これは何回してもよいと思われる。この場合、最終的な料理の形(どの程度煮詰めるのかなど)を念頭におくと後悔する事が少なくなる。味覚の精度に関して、ウェーバーの法則がある。濃度をR、濃度の変化分をdRとすれば、判別可能な最小変化分は一定の比である(dR/R=一定)。即ち、味が薄い時(Rが小さい)には、塩分の微妙な変化(dRも小さい)がわかるが、塩分が濃い時には、少しの塩加減の変化は知覚できなくなる。味が濃くなると、益々味覚が鈍感になる所以である。

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Kozan 平成28年2月8日